医学

脳の神経細胞から「意欲」のメカニズムを解明

慶應義塾大学 田中 謙二 教授

この記事でわかること

私のラボ「先端医科学研究所 脳科学研究部門」がめざすのは、脳の機能を解明し、脳の機能障害を改善させる方法を知ることです。すでに「意欲」に関する「やる気ニューロン」の存在を発見し、意欲行動の「開始」と「継続」はそれぞれ異なる脳領域・神経細胞によって制御されていることもわかりました。いまは無駄な行動を増やす「移り気ニューロン」の研究を進めています。「やる気」「根気」「浮気」の神経基盤の解明は、意欲のメカニズムの理解や治療法の開発、さらに適応障害や強迫性障害などの病態の理解につながると考えられます。

※出典:株式会社栄美通信 2024年8月発行「大学×SDGs」
イラスト:内山 弘隆

 私のラボでは、マウスを用いて意欲行動の神経基盤を研究してきましたが、「ヒト脳とは何か」という大きな問いを解くことをゴールにしています。

 いま、ヒト脳の全容を解明して脳の地図を描く巨大研究プロジェクトが世界各国で進められています。私の研究グループでは、「意欲」に関する「やる気ニューロン」の存在をマウスで発見しました。

 また、意欲行動を持続させる「根気」に注目して、セロトニンによって神経活動が低下すること、そして、腹側海馬神経細胞の活動抑制が意欲行動の持続に必須であることを明らかにしました。

 つまり、「さあやるぞ」という意欲行動の「開始」と、「最後までやり切る」という「継続」は、それぞれ異なる脳領域・神経細胞によって制御されていたのです。

 身近な例では、三日坊主が挙げられます。三日坊主は、「さあやるぞ」と意欲的に行動を始めはするのです。しかし、それが続かないのです。同じ神経細胞が意欲行動の開始も継続も制御していたのなら、三日坊主という状態は生まれないのではないか。そんなことをマウスの研究を通じて考える機会になりました。

 世界中の天才的な研究者が懸命に探索してもなお、脳には未知の領域が残っています。私は、実験がうまくいかなくても前向きです。手を動かしてデータを取っている者だけが得ているものは必ずあるからです。

 仮説通りに進まないときの試行錯誤に面白さを感じ、何度でも繰り返し実験に向き合える姿勢が大切です。そこにも、意欲行動を持続させるヒントがありそうです。

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