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宮崎県立飯野高等学校では、教育活動の柱に「地域協働の探究」を据えています。
生徒たちは探究プロジェクトを通じて地域の課題解決に取り組み、そこでの経験を自らのキャリアに結びつけています。
探究プロジェクトをつくり上げた梅北先生にお話を伺いました。
飯野高校の探究学習の概要を教えてください
本校には普通科と生活文化科があります。
普通科は2年生で探究コースと総合コースに分かれ、これらの学科・コースごとに「地域」を冠した探究プロジェクトがあります。「地域貢献活動」(総合コース)、「地域探究活動」(探究コース)、「地域支援活動」(生活文化科)です。
どの活動も学校を飛び出して、自分たちの考えを実践していく、つまり経験することが絶対となっています。
普通科に絞って話せば、地域貢献活動(総合コース)は、毎週水曜日の午後に地域の企業に出かけます。いわゆるインターンシップ的なことを夏休み前後までやりますが、これは単なる職場体験ではなく、課題を見つけて企画を提案し、実践するところまで取り組みます。
一方の地域探究活動(探究コース)は、プロジェクトをつくることからはじまり、2年間かけて成し遂げるという大きな活動になります。
探究コースの地域探究活動について詳しく教えてください
生徒たちが自分たちのテーマでプロジェクトを動かしていく、「プロジェクトベースラーニング」の形で進めています。
テーマは自由に設定できて、「道の駅を起点とした地域活性化策について」「焼酎造りを科学的観点からみる」など、生徒の視点でいろいろなプロジェクトが生まれています。
焼酎を科学的観点から見るプロジェクトの様子
個人でもグループでも取り組めるので、これは自分一人で、こっちは仲間と一緒に、といった具合に掛け持ちしている子もいて、1クラス30人弱ですが、各クラス十数のプロジェクトが走っています。
本当に何もない状態からプロジェクトをつくるので、テーマ設定はとても重要です。
テーマを見つけられない生徒に、どのように対応していますか
1年生のときに、2年生・3年生がやっているプロジェクトに参加する機会があります。上級生がいろいろな話をしてくれるので、2年生になってすぐにテーマを決める生徒もいます。
そういう生徒には、どんどん走ってもらう一方で、迷っている生徒には教員が声がけをします。自身の興味関心や去年参加したプロジェクトから何かを引き出すという、テーマの種を見つけるワークをやってもらいます。そこでは、我々は決して提案はしません。
それでも、「そんなこと言われても...」という生徒もいますので、その場合は「すでにあるものに自分でチャレンジしてみる」という方向へ持っていきます。先輩たちがやっているプロジェクトの引き継ぎですね。
意外にそれを自分のモノにしていく生徒も多いんですよ。
地域活性化を目指す「えびのスプラッシュフェス」のメンバー
プロジェクトが動き出してから悩む生徒はいますか?
もちろんです。むしろ、悩みや挫折を繰り返しなが学んでいくのが探究だと思っています。
必ずしも何か成果を出しなさいという話ではなくて、我々は、いろいろな人たちと協働しながらプロジェクトを動かしていくことを重視しています。
生徒たちのプロジェクトが回り出したら、教員は進捗状況を聞いたり、困っていることがないか尋ねたりして、次のステップへと促します。
ここでも我々は指示するのではなく、「じゃあ、どうしていこうか」と投げかけて、生徒たちから答えを引き出すように支援します。伴走するんです。
探究プロジェクトが生まれた背景を教えてください
この形で探究学習がはじまったのは2014年度で、2019年度にすべての学科・コースに探究プロジェクトが設置されました。
はじめた理由は2つあります。
本校の進路は就職から大学まで幅広く、「時代が変容していくなか、生徒たちは高校3年間でどうやってキャリア意識を持てばいいのだろう」と、我々はいろいろな学校を視察しました。
そこで見えてきたのが、キャリア教育の視点でプロジェクト型の学習に取り組んでいる学校は、子どもたちが非常に生き生きしているということでした。
もうひとつは、学校以外でのつながりです。
学校の外で活動すると、地域の方々が手放しで喜んでくれるんです。
教員は、勉強と部活と学校行事という、限られた面でしか生徒を見ることができませんので、学校以外で評価されることは、生徒たちにとって大きな意味があります。
学校よりも地域で活動している方が生き生きしている生徒がいることが、それを証明しています。
地域の方との打ち合わせの様子
探究プロジェクトは最初からうまくいきましたか?
もちろん、最初はうまくいきません。というのも、我々もこの探究活動を経験したことがなく、ゴールをどこに持っていくかも見えていなかったからです。
最初は、決して主体的とは言えず、生徒たちに逐一指導しながらひとつの形をつくる状況でした。
手探りでひとつずつモデルをつくる一方で、「子どもたちがやっていることに対して評価をいただこう」と、外に発信していきました。
そのひとつがコンテストへの参加です。
まだ探究をやっている学校が少なかったこともあり、すぐに賞をいただきました。
こういうふうにやるとこのような成果がでるのか、というひとつのロールモデルができたことも、うまく回るようになったきっかけのひとつだと思います。
左:全国高校生マイプロジェクトアワードに参加/右:大学間越境学習プログラム 最優秀賞受賞の様子
また、2015年度から文化センターのホールを貸し切った発表会を行っています。
生徒たちが変容しているところや、これが飯野高校のひとつの文化なんだというところを先生方にも見ていただくうちに、教員側の意識も変わっていきました。
文化センターホールでの発表会
そして、2018年度ぐらいでしょうか。入学した瞬間から「私もこんなことやりたいんです!」という生徒たちが現れはじめました。
3年間で実現したいことを思い描く生徒たちによる縦のつながりが生まれて、主体的に動く生徒の数が増えていきました。
また、並行して先生方にも「私たちはキャリア教育を生かした進路実現をやっている」という意識が定着しました。
本当に、みんなが一所懸命に走ってここまできたんです。
生徒にはどのような力を身につけてもらいたいですか?
自分主体で物事を動かしていく力です。
それは社会に出たときにとても重要な力なのですが、大人でもなかなか難しい。でも、本校では、普通の子たちが自ら物事を動かしていけるようになっています。
理由はマインドです。スキルも必要ですが、チャレンジするマインドが大事なんです。スキルを身につけながら、そういったマインドを養って欲しいと思っています。
探究プロジェクトを通じて、そのような生徒がどんどん育っていくことが一番の願いです。
これまでの生徒たちの活動例を挙げてください。
えびの市には県内唯一の温泉郷があるのですが、そこをPRするプロジェクトに取り組んだ女子生徒がいます。
彼女は、海外志向もあったので、1ヶ月間台湾に留学して、現地ではどのように温泉をPRしているのか学んできました。そして、えびの市の温泉郷の雰囲気を醸成するために、各温泉が手製の提灯をつくって駅に飾るという提案と、温泉水を使ったウォーターイベントを考えました。
彼女は九州大学に進学して、大学1年生のときにそれらの企画を実現させました。
えびの市観光協会と協働してインバウンドデモツアーを実施
また、地域医療の課題を考えた生徒は、「地域医療を考える高校生の会」を立ち上げました。
地元の医療関係者による「地域医療を考える会」があるのですが、その高校生版をつくって、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士など、いろいろな医療従事者と高校生が対話する機会を設けたんです。
その生徒は、国立大学の医学部に進学しました。
地域医療を考える高校生の会
最近は、越境する生徒が増えていると感じています。
限界を感じたら他県や海外に飛び出して学び、帰ってきて改めてプロジェクトを動かしているのです。
また、活動を生かして自己実現する生徒も非常に増えています。
プロジェクトのテーマと進路が結びついている状況です。
探究プロジェクトは年内入試に影響を与えていますか?
入学時はコミュニケーションが苦手のように見えた生徒が、3年次には堂々とプレゼンテーションをして、大人と一緒にプロジェクトを動かしています。
我々教員以外の大人が評価してくださることで、自己肯定感や自己効力感が高まり、「自分でもできるんだ」という自信が生まれてきているのだと思います。
自分の経験のなかから、自分の言葉で自己表現したり考えを伝えられる生徒には、総合型選抜や学校推薦型選抜に向けてプレゼンテーションやディスカッションの練習はせず、「もう面接の練習はしなくていいよ。それよりも小論文をやろうか」などと言っています。
一方で、「探究活動は受験のためでなくて、社会で生きるスキルを身につけるものだから、それが入試に使えたらラッキーだよね」という話をしています。
探究学習に取り組む先生方にアドバイスをお願いします
教員でいると「何か教えなければ」「計画が進まないと大変」などと思いがちですが、探究学習は教科ではありません。
我々が最も大事にしているのは、いかに生徒が自分たちで動けるか、というところです。
同じ目線で一緒に学んでいくというスタンスで、伴走することが大切です。