この記事でわかること
「中国武術(カンフー)」と「日本の武道」をテーマに、大東文化大学の先生2人が語りました。
学長であり柔道の達人でもあるスポーツ・健康科学部の高橋先生は、日本の剣道や柔道の考え方・精神には中国の思想が色濃く反映されていると言い、「たとえば『礼に始まり、礼に終わる』という姿勢は儒教の影響です」と話します。
中国武術を専門とする文学部中国文学科の宮田先生は、「『鬼滅の刃』の戦いシーンで『相手の背景や状況を慮る』という精神が描かれるのを見ると、武道が儒教の思想を受け継いでいることが分かります」と言います。
「中国武術(カンフー)」と「日本の武道」をテーマに、大東文化大学の2人の先生が語り合いました。
学長であり柔道の達人でもある、スポーツ・健康科学部健康科学科の高橋進先生と、中国武術を専門としている、文学部中国文学科の宮田義矢先生です!
なぜ、中国武術が日本の漫画やアニメで描かれるの?
宮田先生:日本の漫画やアニメに中国武術がよく登場する理由のひとつは、型や技の名前に当てられる漢字の響きがカッコいいからだろうと思っています。
たとえば、漫画『拳児』で主人公が奥の手として使う「猛虎硬爬山」は、字面だけですでに強そうです。「猛虎が勢いよく山をのぼる」という意味で、実際に見るとそのイメージ通りの動きをします。
もうひとつの理由は、中国武術によって「生身なのに強い」というキャラクターの説得力が生まれるからだろうと考えます。その強さに説得力を持たせているのが中国文化で、たとえば、『からくりサーカス』の形意拳は五行思想を、『スプリガン』の八卦掌は易経の思想を取り入れています。
髙橋先生:剣道や柔道といった日本の武道の考え方や精神には、中国の思想が色濃く反映されています。
たとえば、武道でよく言われる「礼に始まり、礼に終わる」という姿勢は儒教の影響です。
禅も大きな影響を与えました。日本の武士たちは座禅を通じて精神を鍛え、死を恐れない冷静さを身につけました。剣道や弓道で「技より心が大事」とされるのは、禅の考え方が生きている証拠です。
「無理をせず、自然に従う」という老荘思想もそうです。柔道の「柔よく剛を制す」や合気道の相手の力を利用する技術に通じます。
そして、自然観である陰陽五行思想は、体の使い方や呼吸法、気の流れを重視する思想として受け継がれています。
宮田先生:漫画やアニメの戦いのシーンで、「相手の背景や状況を慮る」という精神が描かれるのを見ると、武道が儒教の思想を受け継いでいることが分かります。『鬼滅の刃』でも、敵である鬼の過去や悲しみを描き、人間であった頃の事情に対する共感が描かれています。
「人間は誰もが善性を持つが、環境や運命がそれを歪める」という視点は、儒家である孟子の性善説に近いと感じます。
体験を通して学び、学びを人生に活かす
宮田先生:私は経験から、自分の興味がある分野を学ぶときは「実際に体験してみる」ことを大切にしてほしいと思っています。
身心技法(身体と心を一体として磨くための技法)は、武道・武術に限らずどの地域でも重要な文化的実践の一部です。体感することで、はじめて分かることや「腹に落ちる」ことはたくさんあり、地域の文化を学ぶ際には忘れてはならないものです。
高橋先生は柔道を続ける中で、大きな気づきや視野が開けるようなことはありましたか?
高橋先生:小学校1年生から柔道を始め、現在も指導者として関わっています。いま改めて柔道を振り返る中で、攻撃と防御が一体となってつながっていることの意識を持ちながら動けるようになったと感じています。
日本の武道の本質として、武道を通じて得た気づきを自分の生き方にどう活かしていくかが大切だと感じています。武道で学んだことが人生の中で活き、そのこと自体を楽しみにできることが一番良いのではないかと思います。