スポーツ科学

プロのサッカー指導者が導く、科学の視点でのスポーツ探究

日本大学 スポーツ科学部 山本 大 教授

この記事でわかること

Jリーグや日本サッカー協会(JFA)での指導実績を持つ私は、豊富な実践知をもとに、コーチングや戦術、トレーニングを学問として研究しています。
授業「戦術トレーニング論」では、競技ごとの構造特性を分析しながら、戦術の本質を論理的に探究します。また、コーチングを擬似体験する「方法実習Ⅲ・Ⅳ」では、指導時の声かけを客観的に検証し、「選手自身がまだ気づいていない感覚を引き出す」コーチングを実践的に学びます。
スポーツだけでなく社会でも生きるマネジメント力を養っていきます。

異なる競技の「構造」を比較し、戦術を論理的に考える

プロのサッカー指導者として、Jリーグや日本サッカー協会(JFA)の現場に立ってきた私は、豊富な実践知をベースに、コーチングや戦術、トレーニングを学問として研究しています。


日本大学スポーツ科学部で私が担当する「戦術トレーニング論」は、スポーツにおける戦術の一般原則を深く学ぶ授業です。講義はまず、「そもそも戦術とは何か?」という問いからスタートします。

本学部のアスリートコースで学ぶ学生たちが取り組む競技は、実に多種多様です。
たとえば、相手の陣地に攻め入って得点を競い合うサッカー、横並びでスタートする水泳、個人の技術と表現力を突き詰める体操など、競技によってその「構造」は全く異なります。
構造が違えば「戦術」の定義や機能も変わるため、学生たちが抱く戦術の概念も十人十色です。

「試合に向けた準備は戦術に入るか。」「試合中の行動の修正は『戦術』と呼ぶのか、それとも『戦略』と呼ぶのか。」そうした戦術概念そのものについて、改めて考えてもらうのがこの授業の趣旨です。
学生たちは、互いの競技の戦術についてディスカッションを重ねることで、種目による思考プロセスの違いを論理的に理解していきます。
さらに、構造が類似している他競技の戦術分析を通じて、自分のパフォーマンスを向上させるための新たなアプローチや知見に気づいていくのです。


講義では、ワールドカップ史上最年長ゴール記録を持つ、ロジェ・ミラ選手(カメルーン)のプレーも分析します。当時42歳の彼が鮮やかにゴールを決めるシーンからは、「経験に基づいた戦術的判断」が読み取れます。
戦術とは、実践という経験の蓄積によって導かれるもの。「試合をやらない限り、戦い方を学ぶことはできない」という戦術の本質を、映像やデータから学んでいきます。

客観的な分析から学ぶ、選手の自発性を促す「言葉の技術」

もうひとつ、指導の本質を擬似体験によって習得する授業「方法実習Ⅲ・Ⅳ」をご紹介しましょう。

この実習では、学生が「選手」「コーチ」「撮影係」という3つの役割に分かれて、スプリント・縄跳び・卓球・リフティングの4種目に挑戦します。これらは、指導における声がけのタイミングやアプローチがそれぞれ異なる競技です。学生はすべての種目で全役割をローテーションしながら経験します。

卓球を使った実習風景。学生は10分ずつ「選手」「コーチ」「撮影係」を担当する

卓球を使った実習風景。学生は10分ずつ「選手」「コーチ」「撮影係」を担当する


この模擬授業を通じて直面するのは「教えることの難しさ」です。
自分が実践したコーチングの様子を録画で振り返り、発した言葉やタイミングをすべて書き出して客観的に分析します。
すると、叱咤激励が多い、ネガティブな表現を使っていた、デモンストレーションができなかった、アドバイスのタイミングが遅かった、といった多くの課題が浮き彫りになります。

「あなたの指導は、一方的な指示になっていませんか?」
これは、私がJFAの指導者養成の現場で常に投げかけている言葉です。
コーチングとは、「選手自身がまだ気づいていない感覚を、本人のなかに生み出すこと」にあります。
指導者に求められるのは、選手に「いまひとつわからないけど、とにかくやってみよう」と思わせる言葉なのです。

「本人が自覚していない可能性や感覚を引き出し、自発的な行動を促す」というコーチングのスキルは、スポーツの現場にとどまらず、現代社会のあらゆる組織マネジメントに生かすことができます。
チームが勝利を目指すことも、起業が利益を追求することも、同じ「目標」です。
目標達成へのプロセスも一緒で、組織が課題解決に向かうとき、リーダーは意見を出しやすい環境を整えて、メンバー全員が自らアイデアを出すことが重要ですよね。



これから大学に進むみなさんには、4年間の豊かな時間の中で、打ち込める「何か」を見つけて欲しいと願っています。
最初に掲げた目標が変わっても大丈夫です。夢中になるものがあればいいのです。

熱中した経験そのものが、みなさんの将来を支える確かな力になるはずです。

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