経済学

理論を社会の実践へ。澤田ゼミが挑む「日銀グランプリ」

日本大学 経済学部 澤田 充 教授

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この記事でわかること

日本大学経済学部で、金融システム論を専門とする澤田教授のゼミナールでは、2〜4年次の学生が金融市場や金融機関について学んでいます。
3年次では、日本銀行が主催する大学生向けの論文コンテンスト「日銀グランプリ」に挑戦。ゼミ生たちは企業や行政機関など「現場」へのヒアリングを重ね、政策提言の実現可能性を突き詰めていきます。
経済・経営系のゼミに大人気の本大会は、2025年度も133篇の論文が応募される激戦でした。決勝進出はわずか4〜5チームという狭き門のなか、澤田ゼミの4チームはどのような成果を残したのでしょうか?

「社会への提言」という形で大学の学びを実践

金融システム論を専門とする私のゼミナールでは、2〜4年次の学生が金融市場や金融機関について学んでいます。
日本経済や金融システムが直面する課題に対し、企業・金融機関のイノベーションをリンクさせて、多角的な視点から解決策を見出していきます。

でも、机の上でひたすら勉強するだけでは、社会に出て実際の課題に直面したとき、それを解決する「術」が弱いですよね。そこで3年次には、日本銀行が主催する大学生向けの論文コンテンスト「日銀グランプリ」に挑戦します。

日銀グランプリは、大学生が「日本の金融・経済を評価し、未来へ向けて提言する」もので、テーマは自由です。経済・経営系のゼミに非常に人気で、2025年度は全国から133篇の論文が集まりました。
そこから日本銀行による厳しい審査を通過し、決勝のプレゼンテーションに進めるのは、わずか4〜5チームという大変な狭き門です。それでも、澤田ゼミでは毎年全力でチャレンジしています。

現場へのヒアリングから導き出す、実現可能な政策提言

ゼミでは3年生になると、4人1組で4つのチームを結成します。その後、チームごとに社会課題を考え、6月下旬までに論文のテーマを絞り込みます。

私は毎年、学生たちがどんなアイデアを出してくるのか楽しみにしています。
「こんなの面白いよ」と参考になりそうな日本経済新聞の記事を渡すこともありますが、彼らはそれを良い意味で無視して(笑)、まったく異なる視点でユニークなアイデアを次々と出してきます。
それを見て、私は最初「え?!」と思うのですが、これが意外にもうまくいくケースが結構あるのです。

日本銀行も、こうした学生ならではの新鮮な感覚を求めているのでしょう。私は、彼らが考えた主体的なアイデアを受け止め、そこに専門的な視点を自分で積み上げられるように伴走しています。

テーマが決まった後は、経済学や金融論の専門知識を駆使して解決策を具体化していきます。ここで最も重要になるのが「現場へのヒアリング」です。
ゼミ生は取り組む課題について、必ず企業や役所など「現場の人」から話を聞きます。実務に携わる方々へのヒアリングやアンケート調査を通じて、「自分たちが考えた政策提言が本当に実現可能なのか」フィードバックをもらうのです。

応募の締め切りは9月末です。夏季休暇中に論文を書き上げたゼミ生たちは、9月上旬のゼミ合宿で発表リハーサルを行い、厳しい質疑応答に臨みます。コンテストの決勝大会では、審査委員長を務める日銀副総裁をはじめ、経済同友会の幹部や地方銀行の取締役など、金融界のトップリーダーたちから本気の鋭い質問が飛んでくるからです。

合宿での入念なシミュレーションを終えたら、いよいよ論文を提出します。果たして、2025年度の4チームの成果はどうだったのでしょうか。

ゼミ合宿の様子

ゼミ合宿の様子

日銀に認められた、休眠特許を活用した企業再生スキーム

結果から申し上げると、残念ながら今回、決勝に進出できたチームはありませんでした。
しかし、優秀論文6チームのひとつに選ばれ、決勝進出の次点となる「奨励賞」に輝いたチームがあります。

受賞した「中川チーム」の論文タイトルは、「ゾンビ企業に特許(特効)薬を処方!〜休眠特許を活用したゾンビ企業再生モデル〜」です。

日本の企業の99%は中小企業であり、なかにはギリギリの収益で存続している、いわゆる「ゾンビ企業」が少なくありません。そうした企業のパフォーマンスを底上げできれば、日本産業全体の活性化につながるのではないか、という視点で行われた研究です。

奨励賞を受賞した中川チーム

奨励賞を受賞した中川チーム


一般的に、再生ファンドが企業を買収して経営改革を行う手法は知られていますが、中川チームは大企業が保有する「休眠特許」に着目しました。そして、ファンドなどによる中小企業再生のプロセスに、この休眠特許を組み込む新しいスキーム(仕組み)を考案したのです。

彼らは、東京商工リサーチをはじめとする中小企業の専門家やデータの専門家、地方銀行の再生ファンド担当者、さらには大企業と中小企業のマッチングを実際に行っている地方自治体にヒアリングをしました。
その結果、「ファンドや企業が受け入れられる現実的な条件」や「具体的な収益の見通し」など、机上では見えなかったリアルなデータを手に入れることができました。

この「休眠特許の活用」というアプローチは、まさに学生ならではの柔軟なアイデアで、日本銀行から高く評価されたポイントだと確信しています。

惜しくも決勝を逃した要因としては、適用できる中小企業が限定的で、社会的インパクトにおいて十分でなかった点かもしれません。日銀グランプリは政策提言の場であるため、経済的な波及効果をどれだけ広く社会に与えられるかも重視されるからです。

それでも、中川チームをはじめとする4チームすべてが、限界まで全力を尽くしました。私は彼らの奮闘を心から称(たた)えたいと思います。

就活の武器も得られる、一石二鳥のゼミナール活動

大学3年次は就職活動の時期でもあります。
企業との面接では「学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)」が必ず尋ねられますが、ゼミ生たちは日銀グランプリに挑戦したことを、胸を張ってアピールしています。
自分たちの手でひとつの政策を形にしたという実績は、採用市場において高い評価を獲得することができます。

澤田ゼミでは、これまでに日銀グランプリで4回の決勝大会出場を果たし、最優秀賞や優秀賞も受賞してきました。
社会に出て求められるのは、自ら問題を発見し、その解決策を主体的に導き出す力です。日銀グランプリという高い目標に挑むプロセスそのものが、問題発見・解決能力を鍛え上げ、社会に羽ばたくための準備になります。

単なる知識の修得にとどまらず、その先のキャリアも見据えて本気で成長できる場所、それが澤田ゼミです。

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