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10月10日、ISS(国際宇宙ステーション)から3つの超小型衛星(キューブサット)が宇宙に放出されました。
そのひとつは、千葉工業大学の学生が設計・製造した「BOTAN」です。
千葉工業大学では、宇宙産業を支える高度技術者の育成を目的に教育プログラムを展開しており、学部学科を超えて学生たちが超小型衛星のプロジェクトに参加しています。
特長は、学生が中心となって超小型衛星の製作だけでなく宇宙空間へ放出後の運用にまで携わり、しかもこれまで3機連続でミッションに成功していることです。
今回放出された「BOTAN」は4号機にあたります。さあ、ミッションは成功するでしょうか?
前編は女子メンバー2名が、ここまでの道程とミッションについて語ります。
こんにちは。小学生の時から宇宙が好きな、情報ネットワーク学科4年の一ノ宮温香です。
千葉工業大学では、学部学科を超えて学生が超小型衛星の設計・製造・運用に携わっていて、私たちはBOTANと名付けられた4機目の超小型衛星を担当しています。
1辺10cmの立方体サイズのBOTANは、キューブサットと呼ばれる超小型衛星で重量は約1kg。今年10月、無事に宇宙に放出されました。
まずは、ここまでの道程について私から説明します。
1通のメールから始まった宇宙への冒険
すべての2年生に大学からプロジェクト募集のメールが配信されたのは2023年4月でした。1週間後に説明会があり、そこからミッションを決めるためのミーティングが毎週開かれていきました。
BOTANのミッションは6つで、私が所属したグループが提案した「海底火山噴火時の軽石の調査」もあります。詳しくはこの後、情報工学科の井口さんがご紹介します。
さて、ミッションと担当が決まってからは、基板の設計や部品の製造など、ひたすら各自で作業を進めました
この頃には30人いたメンバーは9人に減り、女子は私と井口さんだけ。授業が終わるとキャンパスを移動して22時まで作業という、ハードな日が続きました。
部品を組み立てて最初につくったのは、設計や機能を確認・検証するEM(エンジニアリングモデル)です。2024年3月に完成しました。
EMを使ったさまざまな試験は津田沼キャンパスのほか、九州工業大学の設備をお借りして熱真空試験と振動試験を行いました。試験で出た問題を解消して、夏には実際に宇宙に放出するFM(フライトモデル)が完成。FMも同様の試験を行いました。
ところで、BOTANはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の非常に厳格な安全審査をパスしなくてはなりません。
安全審査担当でもあった私は、地上から宇宙に行くまでの振動や熱に対する試験の評価、実験を通じた宇宙飛行士への安全性の証明など、さまざまなレポートを作成して提出しました。いろいろな意見がJAXAから出てくるので、それらを迅速に改善するためのスケジュール管理も大変でした。
JAXAとの数々のミーティングを経て、今年1月に安全審査は終了しました。BOTANは2025年2月28日にJAXAへ引き渡され、9月15日にスペースX社のロケットでISS(国際宇宙ステーション)へ。そして10月10日、宇宙へ放出されました!
BOTANを含む3つの衛星がISSの実験棟「きぼう」から放出された瞬間(写真提供:JAXA/NASA)
さあ、ミッションはここから始まります。しかし、そのためにはBOTANに格納しているアンテナが宇宙で開かなくてはなりません。
じつは、超小型衛星の約1/3は放出後に電波を発信できずに終わっています。そのほとんどの原因はアンテナが展開しなかったことによります。
私たちはドキドキしながらBOTANから電波が届くのを待ちました。
BOTANが撮影した地球は......やっぱり青かった!
アンテナは無事に開きました! そして撮影したデータを送ってきました!
カメラを担当した私が、送られてきたデータをドキドキしながら画像化したところ、丸い地球の姿や海が写っていました。
BOTANが撮影したブリスベン(オーストラリア)上空
BOTANが撮影した中東上空
今回のプロジェクトで私はカメラのハードとソフトの両方に携わりましたが、レンズやミッションボード(情報処理基板)といったハードウェアの知識はまったくありませんでした。
BOTANに搭載されたカメラ(囲い部分)
また、ソフトウェアは3号機から引き継ぎましたが、プログラミングし直して地球からリモートで明るさなどを操作できるようにしました。これも大変苦労しました。
カメラの試験の様子
でも、それだけに設計した通りに宇宙で撮影できた時は「すごい!」と感動し、JAXAの安全審査を通った時は大きなやりがいを感じました。
まずはやってみることが大事です。みなさんも、ぜひ一歩踏み出してみてください!
次は、ミッションについて井口さんがお話しします。
社会課題の解決に挑むBOTAN
情報工学科4年の井口琴葉です。私も一ノ宮さんのように幼少期から宇宙が好きで、また、新しいことをやりたくてこのプロジェクトに参加しました。
BOTAN独自のミッションは6つあり、3つはカメラを使った観測です。
まず、撮影するのはオーロラです。オーロラと地上の電波障害は太陽フレアの影響で発生するため、オーロラの出現を観測して電波障害の予兆を探ります。
トウモロコシ畑も撮影します。日本では飼料用のトウモロコシの多くをアメリカからの輸入に頼っていますが、サウスダコタ州では収穫が減っているので、同州の生育状況を調べます。
そして一ノ宮さんたちが提案した軽石です。海底火山の噴火で飛び散った軽石は、大量に漂流して海洋環境に深刻な影響を与えています。沿岸に漂着した軽石の状況を確認して、漁業や観光業に携わる人たちへの情報提供の第一歩をめざします。
アマチュア無線家に向けたミッションもあります。BOTANが信号を発信しているかどうかは、私たちは千葉工大の上空に来た時しかわかりません。そこで、世界中のアマチュア無線家が、「ここでBOTANのデータを受け取りましたよ」と教えてくれます。
このデータはとても貴重で、私たちは受信協力のお礼にQSLカードという交信証明を送ります。やり取りを担当する私は、ロシアや中国、インドネシア、ギリシャなど、毎日各国からのメールを受信しています。
そのほか、衛星用太陽電池セルの宇宙実証という出光興産株式会社との共同ミッションと、ジャイロセンサを用いた衛星姿勢情報収集のミッションがあります。
軌道上のBOTANの動きを解明
ここからは、私が担当したジャイロセンサを使ったミッションについて説明します。
超小型衛星は、回転しながら軌道を周回していますが、じつはどのように回っているのかよくわかっていません。そこで、BOTANにセンサを搭載して、超小型衛星の動きを可視化するミッションを設定しました。
ジャイロセンサ(囲い部分)
ジャイロセンサのシステム試験の様子
何よりも難しかったのは、測定した姿勢情報のデータ解析です。
クォータニオンという数体系で計算するのですが、そこには物理の知識が求められ、高校で物理を選択していなかった私は理解にとても手間取りました。
でも必死に勉強して、姿勢を見るためのアプリも開発しました。
アプリによって可視化されたBOTANの姿勢
現在はBOTANから送られてくるデータをアプリに入れて姿勢を観察している状況です。今後、センサ値の正確性を検証します。目標は、BOTANが1回転する姿を可視化すること。さらに、回転スピードの変化の解析にも挑みたいと考えています。
何かを始める時に必要なのは経験ではありません。誠意と情熱があれば前に進むことができます。
後編では、機械電子創成工学科の押田さんと大森さんが、BOTANの命であるアンテナとデプロイメントスイッチ、そしてメンバーの今後についてお話しします!