高等学校の探究学習

昭和学院高校の探究学習「マイゼミ」

昭和学院高等学校(千葉県) 土屋 久美 教諭

この記事でわかること

昭和学院高等学校では、「総合探究」と「マイゼミ」という2つの授業で探究学習に取り組んでいます。
マイゼミは人文社会からスポーツまで幅広い学問分野が開講。「マイゼミでの研究をきっかけに、多くの生徒が進路を見つけています」と土屋先生は話します。

昭和学院高校の探究学習の概要を教えてください

GAコース(各学年5~8クラス設置)の探究学習は2つの授業で構成されます。
いわゆる「総合的な探究の時間」である「総合探究」と、本校が独自に設置している「マイゼミ」です。そのすべてが水曜日に集約されています。
マイゼミは興味関心から選択できて、そこで個人探究やプロジェクト型探究に取り組みます。

1年生では、総合探究の時間に「ディスカバ!」というプロジェクトを探究入門として行い、探究活動を体験的に学んで2年生からのマイゼミにつなげます。2年生1学期のマイゼミは、「調べ学習で今週も終わっちゃった」という経験をしながら、探究のテーマを探していきます。
一方の総合探究では、学年ごとに課題は異なりますが、そこを補うために、自分の興味を深めるやり方や信憑性の高い調べ方といったノウハウを学習します。
総合探究でノウハウを学んでマイゼミに生かす。これを繰り返すことで自分だけのテーマを見つけ、2学期から研究をスタートさせます。

3年生になると、2年生で1コマだったマイゼミは2コマに増え、研究をさらに深めていきます。
総合探究の方は、入試に向けて小論文講座や面接対策講座などが開講するので、進路に合わせて講座を選んでいきます。
また、年内入試に個人研究を提出する生徒も取り組めるようにフォローしていて、プレゼンテーション指導なども行っています。

*GAコース以外のコースは総合探究のみになります

*GAコース以外のコースは総合探究のみになります

マイゼミはどのような内容ですか?

一斉に開講するので、水曜日は生徒たちの大移動になります。
人文社会、生命科学、空間・インテリアデザイン、商品開発、医療福祉、芸術創造、スポーツ科学、調理・栄養など、今年は、3年生で15ゼミ、2年生で14ゼミが開講しています。

ゼミは生徒自身で選ぶので、たとえば、スポーツ科学ゼミには、運動機能の向上や理学療法に興味がある生徒や、体育の先生をめざす生徒が集まりますし、エアラインやヘアメイクに興味がある生徒はホスピタリティゼミを選択したりします。

テーマもさまざまで、たとえば、人文社会ゼミに所属する生徒のテーマには、裁判、山岳信仰、民族紛争などがあり、「日米で流行している音楽の違い」を探る生徒もいます。
芸術創造ゼミは音学系と芸術系に分かれていて、演劇を軸にゲームやポスターといった派生コンテンツをつくるチームなど、みんな独創的な活動をしています。

理工・情報ゼミで航空気象について研究している3年生

理工・情報ゼミで航空気象について研究している3年生

人文社会ゼミで修験道の山岳信仰について研究する3年生(左)と、民族紛争が宗教によって起きていることを研究する3年生。個人研究は、教室を飛び出して好きな場所でも取り組める

人文社会ゼミで修験道の山岳信仰について研究する3年生(左)と、民族紛争が宗教によって起きていることを研究する3年生。個人研究は、教室を飛び出して好きな場所でも取り組める

芸術創造ゼミ(音楽系)で、五感を通じた音楽の感じ方を研究している生徒。体感できる装置を自ら制作してデータを集めている

芸術創造ゼミ(音楽系)で、五感を通じた音楽の感じ方を研究している生徒。体感できる装置を自ら制作してデータを集めている

芸術創造ゼミ(美術系)の生徒たち。四人で協力して、ひとつの演劇作品から多様なコンテンツを制作している

芸術創造ゼミ(美術系)の生徒たち。四人で協力して、ひとつの演劇作品から多様なコンテンツを制作している

どのようにゼミを運営していますか?

教員はファシリテーションに従事しますが、ゼミの内容に合わせて工夫をしています。

たとえば、医療福祉ゼミでは外部の専門家を呼びました。
生徒が思い浮かべる医療の仕事は医者、看護師、薬剤師ぐらいなので、実際にはどんな仕事があるか話してもらったのです。
さまざまな職業を知ることは、大学で学ぶ学問分野の選択肢を広げます。

また、このゼミでは制限時間を設けて、ひとつのテーマをインターネットで「調べ」て「発表」し「まとめる」というグループワークを行っています。
調べる=読んで理解する、発表する=頭に入れる、まとめる=書いて記憶する、という学習になっていて、大学入試の面接や小論文の対策につながっています。

5、6人のチームに分かれて、テーマに沿って調べる医療福祉ゼミ

5、6人のチームに分かれて、テーマに沿って調べる医療福祉ゼミ


ところで、今朝、3年生の生命科学ゼミの先生から、「生徒全員が大学教授から返事をもらえた」という報告がありました。
このゼミでは、自分が教わりたい大学の先生を探し、その先生に直接メールで連絡を取る、ということをやったそうです。
その結果、すべての生徒が返事をもらうことができて、なかにはオンラインで教授と話した生徒もいるそうです。
本人たちは、まさか返事が来ると思っていなかったので困惑したようですが(笑)。

そこで、さっそく本日のマイゼミでは、先生方が大学教授へのメールの書き方を指導しています。
良いアイデアは共有して、どんどん取り入れています。

生徒たちに大学へのメールの書き方を教える空間インテリアゼミの教員

生徒たちに大学へのメールの書き方を教える空間インテリアゼミの教員

現状の課題と、その対応策を教えてください

先生方の負担を減らすことが課題で、今年は2年生のゼミの一部を3年生と合同にしました。
先生が二人になってファシリテーションしやすくなったと思いますし、3年生たちも「お姉さん・お兄さんとして頑張らなくては」と2年生の面倒を見ているようです。

医療福祉ゼミは今年から2年生と3年生の合同で開かれている

医療福祉ゼミは今年から2年生と3年生の合同で開かれている


また、この学年(2年)はもうひとつチャレンジをしていて、「学問探究」という講座型のゼミを開講しました。
高校3年生が取り組んでいるマイゼミや総合探究を私たちは「進路探究」と呼んでいますが、進路探究の課題は「質」でした。
探究で質を求めるのは愚問かもしれませんが、先生方は生徒が取り組むテーマの専門家ではないため、どうしても質が下がってしまうところにやりきれない思いがありました。
自分の専門分野で指導すれば、もっと力を上げられる生徒もいる、と感じているんです。
そこで、今年は教員の専門分野を軸とした数学や生命科学など4つの学問探究を設置しました。生徒は講義を受けながらテーマを見つけ、先生はそこにどんどん資料を与えています。
生徒の進路に合わせられるように、今後も先生方の想いと生徒の受容を上手くマッチングさせていきたいと思います。

そして、もうひとつ。質の向上と教員負担の軽減を目的に取り組みはじめたのが、併設の幼稚園、小学校、短期大学との連携です。
マイゼミにはモノをつくったり、実験を行ったりするものもありますが、多くは調べに徹して机上の空論で終わります。
そこを先生方も課題に感じていたので、同法人内での学校連携に踏み込みました。

今年の調理栄養・スポーツ栄養ゼミでは、昭和学院短期大学ヘルスケア栄養学科の先生が講義をしてくださっています。
また、商品開発ゼミでは、同学科と株式会社マルエツとの産学連携で誕生したコラボ弁当の販売に取り組んでいて、イノベーションゼミでは、短大の人間生活学科キャリア創造専攻の力を借りて、韓国麺「ブルダック炒め麺」の販売を実現させようとしています。
そして、教育ゼミでは、生徒たちが幼稚園と小学校で実習を行いました。

*教育ゼミに所属する生徒の話はこちら

「ブルダック炒め麺」の魅力や販売方法について調べたことを発表するイノベーションゼミ。このあと、昭和学院短期大学の先生にプレゼンを行う

「ブルダック炒め麺」の魅力や販売方法について調べたことを発表するイノベーションゼミ。このあと、昭和学院短期大学の先生にプレゼンを行う

どうやって探究学習をつくりあげましたか?

私が昭和学院高等学校に赴任したのは3年前で、当時の1年生(現3年生)を受け持ちました。そして、前任校での探究学習のノウハウを取り入れ、1年生の探究、2年生の探究、3年生の探究と1年ごとに形づくってきました。

取り入れたもののひとつが、外部組織の「ディスカバ!」です。
「ディカバ!」は、高校生のためのキャリア支援プロジェクトで、水曜日になると、事務局のコーディネータと大学生たちが来校します。

昭和学院高等学校に集まったディスカバ!の大学生たち

昭和学院高等学校に集まったディスカバ!の大学生たち


1年生の総合探究では、ディスカバ!がオリジナルの探究・進路プログラムを実施してくれています。
これが教員のサポートにもなっていて、一歩引いてディスカバ!に任せることで、先生方は、入学したての生徒の個性をつかみながら、ファシリテーションのやり方を実感することができています。
「そういう具合に声をかけたら、生徒はこういう顔をするんだ」と思うこともあるようです。
2年生・3年生のマイゼミでも、ディスカバ!の大学生たちが校内を回って生徒とテーマの壁打ちをしてくれるので、本当にありがたいです。彼らはオンラインでもやってくれるんですよ。


私は、探究学習の「形」は簡単につくれると思います。でも、組織やカリキュラムを整えたからといって授業が回るわけではありません。
「探究学習って難しいな」と感じているからこそ、ディスカバ!や短期大学など、頼れるところは頼っています。

探究学習指導に向けて、先生のモチベーションを上げるためには?

本校の先生方はバイタリティがあって、すごいと思っています。生徒を理解するために多くの時間を割いています。
とはいえ、専門ではないことに取り組むことは大変です。私は、生徒が変わっていけば、先生方も「探究っていいな」と思っていただけると信じていて、生徒が自走しはじめれば教員のモチベーションも上がると思っています。


ですから、本校ではマイゼミでキャッチした生徒の情報を担任教員に伝えて進路面談に生かしています。
たとえば、私が受け持っているクラスの生徒のひとりは、2年生のときのテーマはざっくりと「国際・英語」でした。でも、3年生のいまは「ガーナの教育や医療の問題」と明確になったうえ、実際に医療キットをガーナに送る取り組みをはじめました。
総合型選抜を取り入れる大学が増えるなど、入試が変わってきていますので、私は「国際支援やガーナについて学びたいのなら、この大学のこの学科が合っているんじゃない? 年内受験してみる?」という話をしています。

*ガーナ支援に取り組む生徒の話はこちら

マイゼミで研究するうちに、「実は自分がやりたかったのはこっちだった」と気づく生徒はたくさんいます。
たとえば、管理栄養士に興味があった生徒は、2年生で栄養系のゼミに入りましたが、取り組むうちにやりたいことと違うと感じ、自宅で個人探究をしたそうです。その結果、自分は味をつくることが好きだと気づき、3年生のいまは商品開発ゼミに所属しています。

*商品開発に取り組む生徒の話はこちら

マイゼミで本気でやってみたいことが見つかり、そこから進路について考える。そこは先生のモチベーションと大きくつながっていると思います。

生徒にどのようにアドバイスしていますか?

生徒とは、ともかく話をします。メールとか手紙ではなくて、話すことを大切にしています。
「難しいね」「それちょっと違うね」といったマイナスな言葉はなるべく使わずに、「こういうのも面白いんじゃない」「え、それいいじゃん」という感じで盛り上げています。

でも、私たちがそうやって話をするよりも、実は外部の方と話す方が、生徒たちはシャキッとしたり、「自分が取り組んでいることって面白いんだ」と気づけたりするんです。
ですから、「ディスカバ!の大学生さんに聞いてみたら」とか、「実際に大学の先生にインタビューをしてみてごらん」ということも促しています。

私が探究学習を通して生徒に見つけて欲しいのは、偏差値や大学名よりもやりがいで選ぶ進路です。
もちろん、高い目標に挑戦することは大事ですが、「ここに向かって頑張れる」「自分は頑張り方を知っている」という生徒になって欲しいと願っています。

「どうして自分はここを選んだか」が言えれば、どんな大学・企業であっても入ってから言い訳をしないのではないでしょうか。
生徒には、滑り止めも含めて「ここでいいのね」と必ず聞いていて、「受験に失敗したからこの大学にいます、という4年間はダサすぎるよね。そんな大学生活は違うよね」と話しています。
私が尋ねる「ここでいいのね」は、「ここでも、自分がやりたいことをやれるんだよね」という意味です。

*土屋先生から高校生へのメッセージはこちら

探究学習に取り組む先生へのアドバイス

他校の生徒さんと関わらせてみると良いと思います。「同い年の子がこんなことをやっている!」とお互いに憧れてくれて、自信につながるからです。
私も生徒の研究は心配ではあるのですが、でもそれは大人の感覚で、高校生にとっては面白いんです。そこに気づいて盛り上がれるのは生徒同士なんです。
また教員も、生徒たちが話すことによって新しいやり方に気づきますし、他校の先生の動きを見てわかることがあると思います。

私自身、どんどん他校と一緒に探究に取り組みたくて、「うちの学校が探究に取り組んでいることをもっとアピールしなくては」と思っているところです。
本校では毎年1月ごろに全生徒が研究を発表する「探究フェスティバル」を開催しているのですが、今年は、生徒がホームページをつくってくれました。そうしたら早速、県内の高校から一緒にやらないかというお声がけをいただきました。

今年度の探究フェスティバルは、外部の人も呼んで大々的にやりたいと思っています。
そこでは、たとえば芸術創造ゼミの生徒たちがポスターのデザインをしてもいいし、マーケティングを探究している生徒たちが「ポスターをどこに貼ったら効果的か」と考えるのもいいんです。
ちょっとずつ、生徒たちが面白いと思ってやれるものが増えるといいなと思っています。

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